ブラック・バード


これは二つ目のスタジオに引っ越してまだ落ち着いていなかった頃の事です。


日曜日の朝だったでしょうか。何かの用で外に出ると、直ぐ横のアパートメント・ビル前の植え込みの下で

バタバタしている鳥を見つけたのです。

まだ嘴の黄色なブラック・バードの子供、日本ですとツグミでしょうか。


巣の中で飛び出す練習をしている内に落ちたようです。見回しても親の姿は見えません。

側に行くとバタバタと 1m 位どうにか飛び上がります。

野良犬がいますし、そうでなくとも飢え死にしてしまうでしょう。

後を追う事二、三回、羽の上から体を押え込む事が出来ました。

捕まえてみると体力もそんなにありそうにありません。すぐにロフトに戻って餌をやる事にしました。


小さな頃、雀の子供を二回程拾った事もあり何とかなると思ったのです。

その時はご飯を与えていたのですが、ネバリでどうも何処かにひっかかったようです。

二回とも何時間の間に死んでしまいました。


取り敢えずギネピッグが住んでいたケージに入れ、パンをちぎって前に置きましたが、まだ自分では食べられない様子。

左の手の平に上向きに載せ、親指で軽く押さえ、右指で嘴を軽く叩くと口を開けるので、

その間にパン屑を押し込んでやります。

二、三回もやっている内に瞼が下がってきました。疲れてしまった様子。

ボロ布をケージに入れてやり休ませる事にしました。


とにかく餌の確保が最優先。

考えてみれば、まだ親鳥が虫を捕まえては口移しで餌を与えている時期ですから、

穀物より昆虫類の方が良い筈、と気がつき、蝿退治にかかりました。


一階はディスコでしたので、残飯が多く、蝿も多かったのです。

ロフトの改装工事の為に窓は開け放しですから、いくらでも入ってきます。


そして私自身は自称蝿取りの名人。

小学校の三、四年生の時に遊びに行った親戚の家で、蝿一匹につき5円呉れるというので

半日頑張り百匹近くの蝿を捕まえた事があります。

コロッケ、今川焼きが一個五円でしたから大変な小遣い。


アメリカには蝿をくっつけて捕まえる螺旋状の茶色のリボンは売っていますが、蝿叩きはありません。

新聞紙を四つに折ると蝿を追い駆けました。

追い駆けられた経験もないのか、潰して血を出させまいと軽く叩き付けるだけですが、

面白い様に捕まえる事ができました。


叩き落としては箸で拾い上げ運びます。 嘴の先を軽くトントンと叩くとパッと口を開けます。

それを見計らってグッと蝿を押し込むのです。

一息で飲み込んではピイピイと催促。という訳で鳥が起きている間は蝿を追っかけていたような気がします。

一回に五匹以上でしょう。半日もやっていれば蝿も減ってきます。

その日はまだ明るい内に黒い布をかけ、早く眠って貰う事にしました。娘も「鳥さん、鳥さん」と大喜び。


次の日の朝何時もより早く起きてバルコニー状のベッド・ルームから見下ろしますと、

引越荷物の間に置いてあるケージの黒布が外れています。


早起きの妻が外したのだろうと思い降りてみますとカゴの中は空っぽ。

どうしたものかと見回すと、直ぐ側でピイピイ。

妻に聞いて見ますと、布は外したが鳥は出していないとの事。 隙間からの篭脱け。

それにしても、よく表に行かなかったものです。


大慌てで朝の蝿退治にかかりました。 一晩経っているので、又いくらでも捕まえられます。

鳥ももう慣れてしまって側に行くと嘴を開けてピイピイ。


とにかくペット・ショップに出かけ安い鳥かごと餌を買い込む事にしました。

飛べるようになったら放すつもりでしたから大きな籠はいりません。


戻ってみればもうお腹をすかせています。

早速穀物の粒餌を容器に入れましたが、つついて食べるという事をまだ知らない様子。

餌を潰してミルクを混ぜ、箸の先で嘴の中に入れますが、どうも上手くいきません。

買ってきた鳥カゴにいれると又々蝿退治。 仕事も手につきません。


その晩は布をかけずにいたので、次の日はピイピイと呼ぶ声で目が覚めました。

穀物の餌は矢張り減っていません。 カゴから出してやりますと、2,3m は飛べるようになった様子。

早速蝿退治。 箸に手を持ち代えると側にやってきます。


脚力も付いたのか手を出すとピョンピョンと乗りました。

飛び上がったと思うと今度は肩の上にとまります。 完全に慣れてしまったようです。

ブラック・バードは頭の良い鳥、理解力が良いようです。

妻や娘にも平気です。 もっとも小さな娘はへっぴり腰。


パタパタ飛んでは、あちこちに置いてあるの荷物の間に消えてしまいますが、

ピイピイと呼ぶと飛んできて肩の上に必ずとまります。


その日も仕事の合間三十匹程の蝿を捕まえ食べさせていました。

その晩はカゴには入れましたが、トビラは閉めませんでした。

外には出て行かないでしょうし、それならそれで良いと思ったからです。


次の朝、バタバタという羽音と鳴き声で目を覚まされました。

何と手摺の上に止って呼んでいるのです。

手摺は床からの高さ二メートル半、カゴからの距離は五メートル以上あります。

起き上がった途端飛んできて肩にとまりました。餌の催促です。


その日は私に付いたり離れたり、手の平を出せばその上にとまります。

羽の力も強くなったようですし、一週間もしない内に独り立ち出来るのでは、と思われました。

穀物の餌も少しは食べるようです。 その日も蝿を見付け次第捕まえていました。

次の日の朝もブラック・バードが又飛んで来ると信じていました。


朝、目が覚めると、気配がしません。

ピイピイと呼んでも返事がありません。

慌てて飛び起き、ハシゴを降りて捜し始めました。

カゴの中にもいません。 妻も気が付かなかったとの事。


2,3 分もして荷物の間でグッタリしているのを見つけました。 瞼も半開きと言う状態。

鳥がこのようになるとまず助かりません。


綿にミルクを浸して嘴の中に垂らし込みます。

餌も水と混ぜて割り箸の先で押し込むのですが、それを飲み込もうとするだけで精一杯。

布でくるんでやり体温の低下を防ごうとしましたが、三十分程で私の手の中でガックリとなり死んでしまいました。


何で死んだのかは判りません。

餌がしょっちゅう必要な時。 私の捕まえる蝿の量が少なかったのかも知れません。

この間のフンの量も少なかった記憶があります。

内臓的に何か疾患があったのか、夜の内に何かの病気の症状が出てきたのか。


私は自分で知っている限り、出来る限りの事をしたつもりでいましたので、ここ迄慣れてしまったブラック・バード、

暫くはじっと死体を見つめている事しか出来ませんでした。

そのまま布に包んでショッピング・バッグに入れ、セントラル・パーク南側、

例のギネピッグ達を埋めた高台に穴を掘って埋めてやりました。

ブラック・バードは益鳥ですから、ニュー・ヨーク市では、捕獲も飼う事も禁じられています。

私がした事は保護したつもりであっても、厳密には違法なのでしょう。





 金魚

  1978年  1988年 残念ながら金魚の写真はこれだけ


息子が産まれ、タレイタウンに引越しをした夏の或る日、

帰宅してみるとキッチンのダイニング・テーブルの上に丸い金魚鉢。

小さな和金が二匹泳いでいます。 大家さんの娘が、私の家族を連れて

オシニングのショッピング・センターに連れて行ってくれた、と妻が説明してくれました。


その時にペット・ショップを覗いたら、まだ生まれて半年の息子が娘と金魚に見入っていたとの事。

赤い色が目についたのでしょう。

一人一匹づつとして二匹元気そうなのを選び、餌、藻と砂利、金魚鉢一式で買って来たとの事。

一匹5セントの一番安い、ありきたりの金魚です。

私自身小学校時代に何回か金魚を飼った事がありますので、飼い方には少々自信があります。

空になった 1ガロン入りのプラスティック牛乳瓶にきれいな水を入れ、次回の水替えの用意をしておきます。


姉の方が勝手に自分の金魚を決め、早速ピキシーという名前も付けたようです。 勿論餌係りも娘の役。

全長で 2cm にも満たない金魚、餌のやり過ぎには十分に注意しました。

週に一度の水の交換は私の役目。


大変に元気の良い二匹でしたが、一週間もすると差が出てきました。

娘に言わせると一匹がもう一匹をいじめているとか。

見ていると確かにそうです。後ろから尾鰭をつついているのです。

餌の量が少ないのだろうと、少し増やすように娘に指示をしました。

私の言いつけは、きちんと守る娘でしたので、言われた通りにしていました。

私はどうせ与え過ぎるだろうと、たかをくくっていたのです。

しかし、餌を増やした所で、状況は変りませんでした。 もうそれ迄に体力の差が出ていたのでしょう。

娘が「そんなにいじめちゃだめでしょ」と金魚に叱っているのが頻繁になりました。

息子は目の前を動き続ける金魚にご機嫌。

(2017年) こんな状態が1か月も続いたでしょうか。 或る日、「金魚がおかしい」と、娘が報告。 

小さな一匹が、体を斜めにゆっくりと泳いでいます。

尾鰭がかなり短くなっており、急いで他の容器に移しましたが、2,3 日後に浮いていました。

尾鰭が相当につつかれたようでした。 娘と一緒に庭に埋めてやりました。

残ったピキシーは少しづつ大きくなり、尾鰭がどんどん長く伸び、色も赤が抜けていきました。

或る日、妻が泳ぎがおかしいと言いました。 確かにおかしい。

よく見ると、長い尾鰭の先、ヒラヒラしている縁が乱れて何となくトロンとしています。

体も少し倒れた感じになったり。 病気だ、とすぐ感じました。


5アンド10 のウールワース(創立後、長い間、なんでも 5セント、10セントのような金額で売っていた。

当時、全米で・・・というより、世界で・・・A & P スーパー・マーケットと 1,2 の店舗数を競っていた。

勿論、商売を拡げ、何でも売る様になっていましたが。

”ティファニーで朝食を” でお面を盗んだ店が典型的な当時の 5アンド10) では家具、雑貨、

日用品からペット用品迄売っています。


早速行って金魚の飼育の本を買い込み、調べてみると、尾腐れ病のようだ、という結論に達しました。

ほおっておくと尾鰭から腐り始め死に至ります。

直すには抗生物質を入れた水を 24時間毎に交換する、とあり、薬の名前もありました。


店に戻り、説明書を読んで、一つに決めました。

人間用ですと医師の処方箋が必要ですが、ペット用では必要はなく、問題無く買えました。


その時は大きな水槽に買い替えていた筈で、10ガロン(約 38 リッター)・バケツに水を用意し、

プラスティック製の 1ガロン牛乳ビンで薬を溶かし、水槽の掃除です。


この頃、金魚草と砂利を入れていたのですが、1週間もすると水草は丸坊主。

どんどん食べてしまっていたのです。

砂利を吸い上げないようにサイフォンで水を吸い上げ、砂利は念の為、庭に捨てます。


きれいに大きな水槽を洗い、バケツの水と薬水を入れ、次は金魚です。

暫くは浮いているという感じで泳いでいました。 餌をあげ、様子見です。

これが一週間続きました。

毎日の水替えは用意が大変でしたが、元気になっていくのが励みでした。


やがて回復。


それから1年も経たない内に、今度は体が曲がってきたのです。

特に尾鰭の付け根がひどく、泳ぐのも厳しそう。

慌てて本を読み返します。名前は忘れましたが、矢張り抗生物質が必要との事。

今回は砂利も水藻も入れてありませんから、汲み置きの水の準備だけです。

気にかけながら 1週間。 元気を取り戻しました。

しかし、尾鰭の付け根が少しゆがんでしまったのは一生治りませんでした。


その後、引っ越し3回目で自前の家に。

この間も、金魚は少しづつ大きくなり、色は赤みが全くなくなり、銀色に光る体となりました。


尾鰭のゆがみは判る程度、横向 V の上鰭はスーッと伸びた半分程で微かな段が付き、

V の内側には柔らかく切れ目が幾つも入り、ヒラヒラしていました。 

鰭の長さは体長半分。 体長は尾鰭を含め 15cm もあったでしょうか。 買った時はせいぜい 2cm。

今や家の主でした。 優雅にゆっくりと泳ぎますが、水槽に近づくと、スーッと寄って来て睨めっこ。


水替えは、段々手荒になりましたが、金魚も慣れたもの。 慌てた泳ぎはしません。 

1週間に一度、地下室からガロン入りビンを数本、10ガロンの空バケツとサイフォンを用意。

ガラス面に付いた藻をこそげ落としながら、サイフォンの先を底の方を舐めるように動かし、

半分程水を吸出し、ビンからドクドクと新しい水を足します。 この時の水の流れに逆らって泳ぐのが喜しそうでした。

藻がひどい時は、完全に水を吸出し全てを替えるのですが、その間底でじっとしています。


食いしん坊な金魚なので、家を何日も開ける時は気になりましたが、友人に固形の餌があると聞き、試してみました。

底に沈めてあるのを突いて食べるのですが、水の汚れが心配で一時使っていたフィルターをセットし、

3日程出かけました。


帰って直ぐに見ると、元気そうでしたが、水流が出来ているので、動き続けていなければならない様子。

フィルターを外し、早速水の交換をしました。


そうこうしている間に 10年程経ちました。


水槽を置いてある場所は、大きな南向きのピクチャー・ウィンドウに接した大きなテーブルの上。

天気が良ければ何時も陽が当たっていました。

冬になると太陽の角度で、水槽の角がプリズムの働きをし、暖炉の内側、

黒い部分に長い綺麗な連続スペクトルを作り、美しいものでした。

只、藻の繁殖が早くなり、掃除の間隔が短くなったのは仕方ない事です。


或る日、金魚の泳ぎ方がおかしいのに気付きました。体が斜めに倒れてしまい、

一生懸命態勢を立て直そうとするのですが、又、斜めになってしまいます。

よく観察してみても尾鰭の先がトロンとしているのでもなく、尾腐れ病ではないようです。

ゆっくりと水を替え、様子を見守る事にしました。

そのまま夜になり、状態は変わらず、次の日の朝、見ると体が曲がった状態で浮いていました。 


14年間の命。 引っ越し3回を乗り越え、金魚としては長い方と考えますが、友人の金魚は20年以上その時点で生きていましたので、寿命だったとは思われません。


庭の木のそばに埋めてやりました。


 水槽ですと長方形になるので、これは他の物でしょう。


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