ドナルド・トランプ

 次に通り過ぎて行った金持ちはドナルド・トランプ氏。
まだトランプ・タワー・ビルが出来て間も無い頃でした。 日本から内部の撮影してくれないか、と頼まれたのです。 

有名小売店が集まったビルですから、まず撮影は無理。 それでも下見にとカメラを持って出かけました。
相変わらず満員で、この頃は観光客の足の休め場となっていました。
入口にはイギリス王室守衛並みの制服を着たドア・マン。

確かショウ・ウィンドウには日本の貿易体制を非難するメッセージが彼のサイン入りで出入口右側の大きな
ショー・ウィンドウ一面に貼ってあり、TV、新聞で取り扱われおり、この事でも脚光を浴びていました。

ファインダーを覗きながらエスカレーターを上下して、許可が下りた場合の位置決めや使うフィルム、フィルターの
事を考えていると矢張りやって来ました、セキュリティ・ガードマンです。

こちらから先制をかけて、「写真を撮らさせてくれ」 とやりました。 理由がこう、こうと説明を始めますと、
「丁度良い。最高の人が来ているから聞いてみたら」 と言います。

「それは誰?」 「オオー、ミスター・トランプだ」  兄弟で不動産業をやっていましたので
「どっちのミスター・トランプ?」 「勿論、ドナルド氏だ。今あそこにいるだろう。」

指された方を見てみますと、人混みの中、三、四人の背広姿が立ち話をしています。
皆より少し背が高く、がっちりとした若い好男子がドナルド君。 丁度話しが終わったのか歩き始めていました。
「エクスキューズ・ミー。 ミスター・トランプ?」
二人がこちらを見ました。 兄弟一緒です。 
「インテリアの写真を撮らさせて下さい。日本の雑誌に載ると思うのですが」 

「君は誰かな」 名刺を渡しながら、どんなアングルでの写真かを簡単に説明すると、
「OKだ。 何時でも都合の良い時に私のオフイスに電話をかけて時間を決めるように。
後は部下にまかせるから」と、名刺を出して一人の部下に二、三言指示を与え、さっさと立ち去って行きました。

部下は名刺に時間を書き込み、この時間の間にかけてくれとの事。 簡単に話しが決まってしまいました。
二三日中に電話を入れてみた所、原則的に許可は出来ないとの返事。
ミスター・トランプにOKを貰っていると言うと、どっちのミスター・トランプから許可をもらったのだ、
又かけ直してくれ、です。 
次の日に電話すると、連絡は取れなかったし、保険の事があるから許可は出せないと言って来ました。
これは常套手段。
三脚などを使用し、お客さんがつまずいたりでもして怪我をしたら誰の責任になるかと言う事なのです。
「イヤ、三脚は使うつもりはないし、立ち止まっているのも数秒だから、買い物や観光客には邪魔にはならない筈。」 と言うと、「私にはこれしか返事ができない」 とそれでお仕舞い。

埒もあかん、と二三日後に撮影の準備だけはして、トランプ・タワーに赴きました。
守衛にその旨を伝えるとオフィスから男がやってきました。
トランプ氏の名刺を出して、経緯を説明すると、暫く待ってくれ、と名刺を持って上がって行きました。
待つ事数分、男の返事は同じ。
ミスター・トランプと話しをしたのか、と聞くと、どうやら不在だった様子。 名刺も返してはくれませんでした。

私がここで言いたいのは、アメリカのトップの人はその場で明快な返事を出すという事なのです。
彼は勿論、保険云々という話しは知らないでしょう。
しかし、彼自身の判断として、写真を撮らせた方が幾らかの、しかも貿易問題でもめている日本に対して、
宣伝になると考えたのだと思います。

会った時もう少し詳しいインストラクションを貰っていたなら、OKになっていたでしょう。
日本人はこれを読むと単なるワンマン社長と思うかもしれませんが、
単なるワンマンと、決断力、判断力が早いというのには差があります。
只、こういうボスの下には、結構責任の行き場所ばかり考えている者もいるという事です。
バランスが取れていれば問題ないのですが。 トランプ氏はマスコミを上手に使うのでも有名ですね。

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